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2018
03.10

二人のイリーサ R ③/④

Category: 未分類
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 いつも例に出す中国の禅問答集『無門関』に、「倩女離魂せんじょりこん)」という面白い則(問題)があります。中国の昔話が元になっているようです。
 王宙という青年には、倩女という美しい女性との結婚の約束がありました。ところが、倩女の父は、娘を他の人に嫁がせることを決めてしまいます。落胆した王宙は、他国へ移り住むことを決心します。ところが、王宙が他国へ向けて船を出そうとすると、倩女は後を追いかけてきます。王宙は喜んでこれを受け入れます。いわゆる駆け落ちです。
 その後、二人は他国に入り、蜜月の日々を始めます。二人の子供ももうけ、幸せな暮らしを続けます。
 それからしばらくたつと、倩女は王宙に、一旦帰郷して両親に謝りたいと申し出ます。王宙は同意し、二人は故郷に戻ります。
 ところが、故郷に戻った王宙が、両親を訪れると意外な言葉を聞きます。倩女は、王宙を待ちこがれ、ずっと奥の部屋で寝ているというのです。驚いた王宙は、倩女をつれて家に駆けつけます。するともう一人の倩女が家の奥から出てきます。
 王宙があっけにとられていると、その目の前で、二人の倩女は、にっこり笑うと、ぴったり一つになってしまいます。

 先の仏教説話に重なる不思議な話です。「無門関」では、この話をもとにして、どちらの倩女が本物の倩女かが雲水(修行僧)に問われています。読者には、どのように答えられるでしょうか?
   そこで、以下、私見を述べてみたいと思います。
 「どちらの倩女が本物の倩女か?」…。私は、このような問いかけそのものに意味がないのだと思います。王宙の後を追い、子どもまでつくった倩女が本物なら、長い間、家の奥で寝ていた倩女も本物ということです。いえ、もともと倩女は一人だったのです。
 言うまでもなく、この物語の主人公は王宙です。王宙の心の変容こそが問題なのだと思います。王宙は、故郷へ帰ることで、自分をずっと待ち続けてくれていた倩女に出会います。それは、王宙にとって晴天の霹靂であったことでしょう。けれども、倩女の純真な愛情に気づきます。
 王宙は、追ってきた倩女と共に欲望の赴くままに行動しました。しかし、だからこそ、倩女の心に深く抱かれていた純愛に気づくことができたのだと思います。欲望が契機となって人間らしい高い自覚が得られたのです。それが「もう一人の王宙」ということです。(以下、④/④につづく)
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