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2018
01.25

清々しい顔 R ①/③

Category: 未分類

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 今回は、いつもの仏教説話から、動物と人間との交流を描いたお話を紹介します。


 狩人は、泉の近くの雑木林に網を張って、獲物がかかるのを待っていました。しばらくすると、一頭の鹿が草原の中から姿を現しました。そして、ゆっくり泉に近づいた瞬間、網がくるむように、鹿の体にからみつきました。
 「しめた、かかったぞ!」
 狩人は、鹿のもとに駆け出しました。鹿は、悲しそうな声を上げ、もがいていました。
 「もう諦めるんだな。その網からは、決して逃げられない。」
 狩人がそう言うと、鹿は急にもがくのを止めました。そして、頭を下げて言いました。
 「わたしは、もうどうなっても構いません。ただ、わたしには生まれたばかりの二匹の子どもがいます。まだ目もよく見えず、えさも探せません。わたしがいなくなれば死んでしまいます。どうか7日間だけ、わたしを子どもの元に帰してください。自分で生きていけるように教えて、必ずここへ戻ってきます。」
 狩人は、迷いました。急に、けさ家を出るとき、身重な妻が言った言葉を思い出したからです。それは、次のようなものでした。
 「もうすぐ、私たちの赤ちゃんが産まれます。しばらくの間は、生き物の命を取るのは止めてくれませんか。」
 狩人はしばらく考えていました。そして言いました。
  「よし、おまえの言葉を信じよう。逃がしてやるから子鹿のもとへ帰るがいい。」 そう言うと絡まった網をほどいてやりました。
 鹿は、喜んで雑木林の奥に走っていきました。
 
 それから7日経った昼過ぎ、狩人は、約束した泉のほとりにやってきました。やがて、草を踏む音とともに、あのときの母鹿が姿を現しました。後ろからは、可愛い二匹の子鹿も出てきました。
 「ついてきては、だめ!帰りなさい!」
 母鹿が、厳しい声で言いました。でも子鹿は母鹿にまとわりついて離れません。  それを見た狩人は、急に鹿に向かってこう怒鳴りました。
 「おまえとの約束など、忘れた。さっさとわしの目の前から消え失せろ。」…「早く逃げないか!…逃げろと言ったら逃げろ!」
 鹿の親子は、何がなんだかわからないまま、雑木林の中を逃げ帰っていきました。じつは、狩人には、三日前、元気のよい男の赤ちゃんが生まれたのです。狩人には、自分の赤ちゃんと2匹の子鹿が、別の命のように思えなくなっていたのです。
 狩人は、鹿の親子を見送ると、空に向かって大きく伸びをし、清々しい顔をして、家に帰っていきました。
(以下②/③につづく)


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